「人との絆」        牧口誠司

 7月3〜4日、新潟私教連と公立学校とのコラボ教研に「おまかせHR研究会」として呼んでいただき、充実した2日間を過ごしました。3日は朝から夕方まで6時間もかけて、ぼくたち「おまかせHR研究会」の「夏の陣 教室のピンチをチャンスに変えるぞ講座 〜大阪名物「100連発」がやってくる〜」と題したワークショップを行いました。具体的な中身を書くと今後の“行商”の支障となりますので簡単に紹介しますが、まずは班分けのワザ、集団の雰囲気を和らげるワザ、自己紹介のワザなどを披露しました。そのあと、4つの班に分かれて、僕たちが日ごろ直面する学校現場での「ピンチ」の具体例について、参加者が知恵を出し合って対応策を考えていく、という形で進めていきました。文化祭10日前なのに全然準備が進んでいない、親が教科担当を変えろと要求してくるなど、どれも僕たち「おまかせ」のメンバーが実際に体験した「ピンチ」ですからリアルな問題です。実はこれらのネタ、毎年呼ばれる大阪大学奈良教育大学でも学生諸君に取り組んでもらうのですが、今回感心したのは(なんて書くと上から目線でエラそうですが)、どの班も教員の協力関係という視点を外していなかったことです。自分一人だけで頑張るのではなく、担任や教科担当、学年団といった様々な立場の人間がそれぞれの視点で意見を出し合い、何ができるかを考えていくという、教師としては至極当然の、しかし今まで大学で扱った際にはなかなか出てこない取り組みを見せていただきました。さらに、親や子どもの表面的な要求(担当を代えろ)の下に、何か別の本質的な要求(クラスになじめない、思ったように成績が伸びない、など)があるのではないかと、懐の深い視野に立って対応を考えておられるところにもなるほどと思わされました。

 4日は午前中に報告が3本という盛り沢山な内容で、初めの2本は文化祭や生徒会などの集団としての生徒との関わり、そして最後は3年間担任をしたある女子生徒との関わりについてでした。文化祭・生徒会の取り組みは、非常に充実した実践報告で、正直言って僕の勤務先などは足元にも及ばないような内容でした。それも、長年にわたって培われた組織作り、生徒同士のネットワーク作りのノウハウがあって、その蓄積の上に見事な実践があるのだと感じました。
 そして、生徒との関わりはの報告は、どんな生徒に対しても頭ごなしに叱らず、じっくり時間をかけて対話をするという考えを貫いて、時には生徒主任と対立しながらでも生徒を守ろうという先生の姿勢に感動を覚えました。はじめは大人への強い不信感を持ち、学校生活は最低だと言っていた生徒が、最後には最高の高校生活だと言って卒業していったそうです。

 最後に感想を述べたのですが、僕が最近関わっている「ホームレス問題の授業作り全国ネット」代表の北村年子さんのお話を引き合いに出させていただきました。北村さんは、「ホームレスとは人ではなく、状態のことです。だからどんな人でもホームレス状態になる可能性があります。地震や戦災で家を失ったり、DVでびくびくしながら暮らしている人には安心していられるホームがない(=ホームレス)といえるのです。あなたには今、居場所がありますか? あなたのクラスは、”ホームルーム”になっていますか?」と問いかけます。僕たち教師の仕事は、子どもたちにとってのホームを作ることではないでしょうか。それはその子の今を丸ごと承認してあげることや、その子の成長の可能性を信頼することから生まれてくるものなのでしょう。そして子どもたち同士の関係において、確かな絆が生まれるよう心を砕くことも、彼らの居場所作りにとって重要な仕事になるのだと思います。
 そして――これは今回の教研の場では言えなかったのですが――、教師自身にも居場所は必要で、それは職員室かもしれないし、担任をしているクラスかもしれないし、クラブの場合もあるでしょう。それが奪われること、奪うものとは闘っていかなくてはいけないのだと思います。それは文科省だったり教育委員会だったり、えげつない私学の経営者だったりしますが、それらと闘う勇気を与えてくれるのが、高生研だったり、組合だったり、地域のネットワークだったりといった、仲間たちとの絆なのだという思いを強くしました。

 前日の懇親会の席で、無茶ぶりで有名な大阪のメンバーの一人(ええ、もちろんSさんです)から「なぞかけ」をしろ、と言われて往生しました。その時は出てこなかったんですが、1晩考えて、やっと最後のお別れの時に皆さんに聞いていただきました。
 「新潟県と掛けまして、未来ある子どもたちと解きます」
 「そのこころは?」
 「来るべきトキを待つ」
おあとがよろしいようで・・・。