「クラス演劇の台本が決定するまで」

 私の勤務校では学校祭のクラス発表の演目が学年ごとに決められていて、2年生は50分の演劇です。私はクラス演劇の取り組みは台本決定までが最重要だと考えていますので、4月のクラス役員選出時に“台本選定委員会”を立候補で決めていました。私のクラスでは女子4人男子2人で構成された選定委員会が5月上旬から台本探しに取りかかっていました。また私からの提起を受けて、2年生5クラスのいずれにも台本選定委員会が発足して選定作業が始まっていました。学校祭は9月6日と7日です。遅くても6月下旬には台本を決定して7月当初の定期テスト後にはすぐに準備にとりかかりたいところでした。しかし何事もゆっくりしている私の影響か、私のクラスで台本が決まったのは1学期終業式直前でした。
6月上旬に台本選定委員会から出された数本の候補の中からYくん推薦の「サマータイムマシン・ブルース」が過半数の支持を得た時は、これで台本は決まりかと思わたのです。私はそれがヨーロッパ企画という劇団のオリジナルだということをYくんから聞くやその晩自宅のインターネットでその劇団を検索し「サマータイムマシン・ブルース」の一部を見て、「おもしろそうやなぁ〜」と思っていたのでした。
 しかし手堅い台本選定委員会は「サマータイムマシン・ブルース」の台本を読破し、HRで朗読会をしました。その結果、「過去と現在が行き来するストーリーがわかりにくい」という声が大勢を占めて、この台本案はあえなく却下されてしまったのでした。
 三谷幸喜の作品も何本か注目されていたので、その作品の上演ビデオを昼休みにLL教室で見ることを台本選定委員会が企画しました。ところが集まりが悪く、話は進みません・・・。「集まりが悪いということは魅力がないということか・・・?」と台本選定委員会は考えました。ここまでのプロセスから、「出演者数の多い劇が求められている。出たい人が多いようだ。」ということが明らかになっていました。
 クラス全員にアンケートが呼びかけられ、最初に出されていた案の残りから三つ選ぶか、それ以外に推薦があれば書くことになりました。その結果浮上してきたのが、三上幸喜作「ラジオの時間」、マルシャーク作「森は生きている」、シェイクスピア作「リア王」でした。「ラジオの時間」は台本が手に入らないので誰かがビデオから書きとらなくてはなりません。「ラジオの時間」を推薦する人が誰か書きませんか?という呼びかけに応じる人がいなかったため、「ラジオの時間」は候補から外れました。
 「森は生きている」をクラス全員で読み合わせしました。マルシャークの原作を劇団「仲間」やオペラ集団「こんにゃく座」が独自に脚色して上演を重ねている名作です。林光による歌も数多く作曲されています。クラスでは三分の一の支持を集めましたが過半数に届かず。“子供じみている”という印象がぬぐいきれないようでした。 
そろそろ6月も終わろうとしていました。期末テスト直前のHRで「リア王」の読み合わせをすることになりました。知る人ぞ知るシェイクスピアの三大悲劇の一つですが、原作の雰囲気を忠実に訳した日本語が難しかったのか、漢字が読めず言い回しの意味が理解できない人が大勢を占め、読み合わせが終わるころには、「いうまでもなく却下」という雰囲気が教室に漂ってしまいました。その時、予定外にも台本を書きおろしてきた人がいるということが発覚!!Gくんが「新世紀エヴァンゲリオン」をシナリオの形式に書き下ろしていて、配役まで決めていたのでした。早速それも読み合わせすることになり、Gくんのテキパキとした指示の下に、役割に割り当てられた人たちが、次々に笑いを巻き起こしながら「新世紀エヴァンゲリオン」第一話冒頭のシーンを読み合いました。
 この時間はこれで終わったのですが、私はこの「新世紀エヴァンゲリオン」の続きをG君が執筆してそれをクラス演劇にするのかな?と予想して、その夜は早速インターネットで原作のストーリーを検索して読みこんだのでした。Gくんが「続きを書きますよ!愛と友情の物語にします」と言っていたものですから。
 クラスは期末テストに突入し、台本どころではない数日が過ぎました。テスト最終日の午後、「そろそろ決めないと本当にやばい」と台本選定委員の誰もが思い、私も思っていました。この日の段階で推薦のある台本を委員が手分けして読み、登場人物・ストーリー・見どころ、を表にしました。その表に挙がったのは、「ナツヤスミ語辞典」「ジュリアス・シーザー」「モモ」「森は生きている」「ガラスの靴をぬぎすてないで」でした。(意外にも「新世紀エヴァンゲリオン」はGくんから“辞退”されたとのことでした。「気をつかったんですよ〜。いやがっている人もいましたしね〜」というのが国澤くんの弁です。しかし後に「続きを書くのが面倒になった」という真相が発覚。)8日水曜日のHRにて全員で表を読み、投票しました。最終決戦投票の結果、ミヒャエル・エンデ原作「モモ」が圧倒的多数を集めてあっさり決まったのでした。決まる時はこんなものですね。
 次の週のHRで役割分担がなされました。“全員でかかわろう”という方針がほぼ全員

の中に暗黙の了解としてあったのが担任としては大変うれしいことで、配役、裏方のすべての役職が立候補で決まりました。ここからの準備の速さは目を見張るようでした。台本の整備が終わり、現在は、役者たちは立ち稽古、裏方は道具製作をしています。私はクラス演劇の基礎工事を丁寧にやってくれた台本選定委員会の人たちを心から労いました。私は猛暑の中で準備に励むクラスにアイスの差し入れをしています。
(京都 田中)