「早春の北海道に行ってきましたぁ!」 第5話

たしかに「帯広といえば豚丼っしょ」と軽口を叩いた覚えがある。で、帯広で出迎えて下さったN先生は、わざわざインターネットで豚丼の美味しい店を探してきていただいたのだ。でも、われわれ我儘4人組は車中で駅弁食って、また、夜は牧場で焼肉と聞いて、列車の中では「昼飯は軽あるく蕎麦かなあ」などと、すっかり豚丼をリクエストしたことを忘却していた。でも、ここはせっかくのご厚意に、豚丼を食しに行った。ただ、いつもなら必ず大もりを注文する面々が、今日は並みで遠慮している。で、そのお味はというと、せっかく調べて頂いたN先生には悪いが、全国各地のB級グルメを食べ歩いてきた我々には…(皆まで言いません)ちなみに、帯広の名誉のために書いておくが、帯広の人にとっての豚丼は家庭料理で、めったに外では食べないので、お店で食するのは観光客だけらしい。もうひとつ、帯広の名物はスイーツ。六花亭はあまりにも有名だが、紹介していただいたクランベリー(お店の名前)のスイートポテトは超特大にもかかわらず、味は繊細、皮まで食した。
ところで、N先生という方は、むかし佐藤さんと一緒に学級通信の本を出版したがために、今回不幸にも帯広から大樹にある牧口さんゆかりの牧場まで、車で送っていただくことになった人物である。我儘4人組は、ひとの車であるにもかかわらず、道中どこへ寄るかでまたまた侃侃諤々の議論。とりあえず中札内美術村を訪問することになったが、あいにくの閉館。これを悲しむ者、喜ぶ者、悲喜交々。坂本直行記念館にも足を運んだが、周囲は固く雪に閉ざされていた。
周囲は日本とは思えないような広大な畑が続くが、この時期は雪また雪。ほとんど風景が変わらない畑の間をひたすら南に下る。美術館がパスになったおかげで、予定していた虫類温泉(ナウマン温泉)から少し(といっても20キロほど)牧場をオーバーして、晩成温泉へ行くことになった。「これって、大器(大樹)晩成をもじってるんやろなあ」などと言っているうちに、太平洋が目の前に姿を現した。「もしかして」である。「やっぱり」である。夕暮れの太平洋を望みながらの温泉である。ヨウ素イオンの含有量がべらぼうに多いという茶色の泉質もさることながら、水平線を眺めながら入るお湯は格別。露天風呂はなかったものの、野外にはベンチが置いてあり、湯船で暖まった身体に太平洋からの風が心地よい。さらに趣向よく月まで愛でることができた。昨日は雪の日本海、そして、今日は月の太平洋、まさに旅のだいご味である。N先生には申し訳ないが、本当に素晴らしい温泉に案内していただいた。暗くなる道を少し(といっても20キロほど)戻って、ようやく目的地の牧場に到着。余市から大樹まで、今日は大移動であった。