札幌大会ここが見どころ・聞きどころ−特別分科会「教師のライフヒストリー」(1)

川原茂雄

 今回の札幌大会2日目は全国の高生研の実践報告をもとに、参加者全員による質疑と分析討論を行う一般分科会が実施されますが、同日に北海道「教師の学校」実行委員会と沼澤博美先生(元北海道広尾高校教諭・学校長)による「教師のライフヒストリー」が特別分科会として開設されます。「教師のライフヒストリー」って何だ?と思われる先生方も多いと思いますので、今回はこの「教師のライフヒストリー」について説明させて頂きます。

○北海道「教師の学校」における「教師のライフヒストリー
 北海道「教師の学校」とは、北海道の高校教師の有志たちが中心となって企画し、2007年から毎年夏休み期間中に2泊3日の日程で開催されている、教師どうしの自主的な学習会・研修会です。その「教師の学校」において、一番のメインとなっている研修プログラムが「教師のライフヒストリー」なのです。これは、経験豊かなベテラン教師に自らの「ライフヒストリー」を「語って」もらい、それを参加者全員で「聞き取り」、さらにその「ライフヒストリー」をもとにして、参加者全員で「劇づくり」に取り組むというものです。

○「ライフストリー」の「語り」
「教師のライフヒストリー」とは、その教師が教師になってから現在までの「生活史・実践史」です。たんなる教師としての「履歴・経験史」ではなく、その教師が「どのように教師になっていったのか」という、教師としての成長・発達のあゆみ=歴史なのです。ですから「ライフヒストリー」を語って頂く先生には、これまで「どんな学校に勤務したのか」「どんな教科を担当したのか」「どんな仕事(分掌・担任・部活等)を担当したのか」だけでなく、「どのような生徒たちと出会ったのか」「どのような場面で指導がうまくいかなかったのか」「どのような指導をした時うまくいったのか」ということをできるだけ具体的に語って頂きます。
そのうえで、特に語り手の先生の教師としての歩みのなかで特におおきな「転機」となった「出来事(指導場面・実践)」のいくつかを重点的に語ってもらいます。その時、たんにいくつかの「出来事」を羅列していくのではなく、そのような「出来事」を経験したことによって先生自身がどのように「成長・発達」していったか(あるいはいかなかったか)、そのことによって「現在の教師としての自分」がどのように形成されてきたのかを、時間的な流れに沿って「筋立て」し、ストーリー化して「語って」頂きます。それが語られる先生の「ライフヒストリー」となるのです。

○「ライフヒストリー」の「聞き取り」
 参加者には、「語り手」の先生の「ライフヒストリー」をじっくりと「聞き取って」もらいます。基本的にはまず「語り手」の先生が「ライフヒストリー」を一方的に「語って」もらい、それを「聞き取る」ことになります。「聞き取る」中で、「もっと聞いてみたい」「他のことも聞いてみたい」と思うことがいろいろと出てくると思いますが、「質問」はできるだけ事実の確認や曖昧な点をはっきりさせることにとどめ、「語り手」の先生の「語りの流れ」をじゃましない程度にしてもらいます。くわしい「質問」については、「語り手」の先生の「ライフヒストリー」がひととおり語り終わってからにします。その際、聞き取る側は、たんに「語り手」の先生が語る「出来事」について、それが「どのような出来事だったのか」だけではなく、その「出来事」がその先生にどのような「意味」を持っていたから「転機」となり、その先生の「成長・発達」の契機となりえたのかを明らかにするような「質問」や「聞き取り」をしてもらいます。

○「ライフヒストリー」による「劇づくり」
 全体的な「語り」と「聞き取り」を通して、その先生の「ライフヒストリー」の中の「出来事」の中から、その先生にとっての「主題(テーマ)」を象徴するような「出来事」を選び、なにが、その先生の「ライフヒストリー」の「主題(テーマ)」であるかを明らかにしていきます。そのためのもうひとつの試みが「教師のライフヒストリー」による「劇づくり」なのです。これは、参加者全員で、語り手である先生が語った「ライフヒストリー」をもとにして、その教師の「実践主題(テーマ)」を最も象徴するような決定的・典型的な「出来事(エピソード)」を選びだし、それを十分程度の「劇」として表現していくというものです。参加者が、語り手の先生の「ライフヒストリー」をもとにして、共同で話し合いをしながらシナリオ(脚本)をつくり、配役を決めて、ひとつの劇を創り上げていきます。その教師が実際に体験した「出来事(エピソード)」を、ひとつの「劇」にしていくことで、その「出来事(エピソード)」を参加者全員で追(再)体験をしながら、その意味を考えていくというものです。このような「ライフヒストリー」の「語り」と「聞き取り」と「劇づくり」という一連のプロセスそのものが、語り手にとっても、聞き手にとっても、ひとつの共同の“学び”となっていくもの、それが北海道「教師の学校」の「教師のライフヒストリー」なのです。

またまた説明が長くなってしまいました。次回は「語り手」となる北海道の伝説の高校教師・沼澤博美先生についてご紹介したいと思います。